脂ぎったブヨブヨのボディから延びるまがまがしほどに図太い腕に抱かれている赤ん坊。
首を右に左にふり、足をバタつかせ目の前にいる僕に助けを求めるかのごとく泣きわめいている。
泣きわめいているのに僕たちの周りを囲む多くの人は助けようとしない。
驚き、笑い、時に無関心ですらある。
誰も助けないなら僕が助けてやる。
そう思って一歩踏み出そうとした足は空を切るばかりで一向に前に進まない。
全身をバタバタさせてみてもその場から全く微動だにできない
ふと首に生暖かい何かを感じた。
ぞくっとして後ろ振り返る。
ねちっこい笑みを浮かべた僕の3倍はあろうかというほどの大きな顔がこちらを見て、鼻息荒く何事かをつぶやいている。
だが僕は言葉を持たない。
だから彼が何を言っているかさっぱり分からない。
果たして自分がどこにいて、何をやらされているのかすらも分からない。
自分が世界から分化していることだけはかろうじて実感できるだけに、この状況をただただ奇妙に感じる。
だけどどうやら僕の目の前で泣き叫んでいる赤ん坊と同じ状況にいるらしいことはつかめてきた。
それが証拠に僕のお腹周りにごつごつした巨木のような腕が絡みつき抱きかかえ、離さない。
何とかしてこの状況を打破しようとじたばたしている様相は対面の赤ん坊とまるで合わせ鏡のように奇妙な一致を見せる。
僕はいったいここで何をしているのか、周りにいる人たちは僕に何を期待しているのか。
背後に立つトロールが如き巨体は僕を抱きかかえ何を企んでいるのか
首に吹きかかる鼻息がより強くなり、僕のおなかに絡まった腕の締め付けも徐々に厳しくなっているように感じる。
息苦しい。
助けて。
じたばたする僕の足がトロールのぶよぶよの腹を打つ。
だが全く効いていないのか、トロールの笑い声が一層大きくなる。
人の不幸を幸せに感じ悦に浸っているのだろうか。
狂ってる。。
さらにじたばたする僕の前に別の何かがやってきて、何やら変な顔を作ってちょっかいをだしてくる。
何をしているのだ、この人は。
これは何かの儀式か。
僕は何かの生贄にされるのだろうか。
僕は死んでしまうのだろうか。
誰か、、助けて。。。
あふれる感情がついぞ泣き声となり、その泣き声が会場全体をけたたましく揺らす。
会場全体がどっと湧く。
僕のSOSは届かない。
・・・
泣き相撲をTVで見た。
幼児が笑顔の力士に抱きかかえられ、向かい合って泣き声の大きさを競うお祭りのようだ。
多い時ではかなりの幼児が参加し、トーナメント方式などで勝敗を決していく。
幼児の泣き声には悪疫退散の効果があるようで、泣けば泣くほど会場はどっと沸く。
幼児の泣き顔が、囲む大人を幸せにし、だから欲張ってさらに幼児の泣き声を求める。
だが場合によっては泣かず、何も反応を示さない幼児もいることから、対戦する幼児の間に行事が割り込み、怖い顔をしたりして何とか泣かせようとする様は見どころだ。
幼児をそのふくよかな腕で大事に抱きかかえる力士も自然と幼児に寄り添って鼻息荒くこの激しいバトルの行方を見守る。
会場全体の空気は緩い。
みな幸せそうだ。
優勝した幼児が1日で何回泣かされたか分からないし、何を思って泣いていたのかも分からない。
ただ分かってるのは、泣く子は育ち、泣くと悪疫が退散してくれるらしいこと。
しかし無理に泣かされた子のメンタルが心配だ。
http://www.tobukyoshitsu.org/